マイコプラズマ肺炎の流行に関して
2023年の末から複数のメディアが中国、韓国、アメリカ、デンマークそしてオーストラリアでの小児肺炎について報告をしています。その原因の一つと考えられているのがマイコプラズマ肺炎との報道がありました。インフルエンザやコロナはよく聞くかと思いますが、マイコプラズマって何ぞ? となる方も多いと思います。今回の記事ではマイコプラズマについて簡単に説明をしたいと思います。注意してもらいたいのは、正確な情報はかかりつけ医や最寄りの医療機関、行政にお問い合わせください。
マイコプラズマへの対抗策は?
マイコプラズマは「細菌」で、「アルコール消毒」、「手洗い」と「マスク」が効果があると考えられています。ワクチンはありませんが、複数の治療薬が存在します。
「ワクチンが無いの?!!」 と驚かれて不安になられる方がおられると思いますが慌てないでください。前のコロナとは違い、マイコプラズマは複数の有効な治療薬が既にあります。なので、適切な予防と治療によってしっかりとした防備、治癒が可能だと考えられます。冬場で元々流行る傾向があるので、今回の流行それ自体はおかしくありません。
マイコプラズマ肺炎は子供だけではない
今回も盛んに言われている通り、「子供での」や「小児での」とよく言われますが、大人も感染します。少し古いデータですが、2012年の国立感染症研究所の報告によれば、1~14歳までの小児が約8割を占めている、とされています。ですが、注目してもらいたいのは60歳以上がジワジワ増えてきていることです。10年以上前でこの状態でしたから、今はさらに60歳以上の方の患者数が多くなる可能性があります(これは、そもそもの60歳以上の方の人数が多くなっていることもが一つの大きな要因です)。そして、呼吸器疾患がある方、免疫が低下している方では重症化リスクが比較的に高いです。潜伏期は通常2~3週間、初発症状は発熱、全身倦怠、頭痛との報告です。さらに注意してもらいたいのは、再感染の可能性があることです。通常の感染では、再感染は低下する傾向がありますが、マイコプラズマでは再感染の可能性があります。「この前感染したから、しばらくは大丈夫」、というわけではありません。なので、他の感染症とは違い、高齢者であってもマイコプラズマに対する強力な免疫が獲得できていない可能性があります。だから、私は小児だけでなく高齢者も注意を向けるべきだと思います。油断大敵です。
薬剤耐性菌には要注意
ここでさらに注意が必要なのが、薬剤耐性菌です。マイクプラズマに対しては抗菌薬が治療薬として使用されますが、その使い方は国や地域によってまちまちです。また、抗菌薬は正しく使われないと薬剤耐性菌が発生してしまいます。そして、現在のマイコプラズマに関しては薬剤耐性に関してはまだ不透明です。そして、小さな子供に対しては使える抗菌薬が限られていることも問題です。なので、最初に考えるべきは感染しないことです。そもそも、感染しなければ、抗菌薬を飲む必要はありませんよね?
マイコプラズマ肺炎の基礎生物学的な概略
少し専門的な話になります。マイコプラズマ肺炎(Mycoplasma pneumoniae)は細菌ですが、細胞壁を持ちません。細胞膜で覆われています。よって、細胞壁合成阻害剤は効果が薄いです。ゲノムは816,394 bp で687個の遺伝子が乗っています。長さは1,000~2,000 nmで、太さは100~200 nmです。コロナウイルスのサイズが100 nmなので、細菌ですが、とても小さいことが分かります。代表的な細菌である大腸菌は太さ500 nm、長さ2,000 nmです。マイコプラズマ肺炎は大腸菌よりも半分以下の太さです。ゲノムは4,600,000 bpです。なので、ゲノムサイズは5分の1です。上皮細胞に接着し、増殖します。病原性因子はMPN372として報告されたADP リボシルトランスフェラーゼ (ART) 活性を持つ68 kDaのタンパク質で、後にCARDS toxinと命名されました。
引用、参考サイト
「 マイコプラズマ肺炎とは 」
国立感染症研究所
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/503-mycoplasma-pneumoniae.html
「 中国で小児を中心に増加が報じられている呼吸器感染症について 」
国立感染症研究所 感染症危機管理研究センター。実地疫学研究センター。2023年11月24日時点
https://www.niid.go.jp/niid/ja/from-lab/2521-cepr/12382-china-respirtatory.html
「 Mycoplasma pneumoniae Infections 」
Centers for Disease Control and Prevention, Atlanta, Georgia, United States of America.
https://www.cdc.gov/pneumonia/atypical/mycoplasma/index.html
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「 東京都感染症情報センター 」
https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/